スウェーデン王国雑感

東京医科歯科大学大学院
医歯学総合研究科 環境社会医歯学系専攻
医療政策学講座 政策科学分野
河原 和夫 教授

 

 スウェーデン王国(以下スウェーデンと記述する)は、人口約900万人、面積約45万km2の北欧の主要国である。過去、貧困や各国との戦争の歴史を経て、いまは中立国の立場を維持し、一人当たりの国民所得も世界のトップに位置している。また、高福祉を政策の柱に掲げ、世界最高水準の社会保障制度の恩恵を国民は受けているが、同時にそれを維持するための税金面での高負担も有名である。

保健医療指標については、平均寿命や健康寿命、そして乳児死亡率などは、世界でもトップクラスの健康水準にある。





 行政機構としては、ランスティング(landstingskommun;landstingわが国の都道府県に相当)が責任を持って地域住民に医療を提供している。また、保健福祉コンミューン(primarkommun;kommunわが国の市長村に相当)によって住民に対してサービスが提供されている。
 ランスティングは全国に20あるがこの中には実験自治体レジォン(region)が含まれている。また、コンミューンは全国に289ある。

 ランスティングは複数のコンミューンから構成され、それぞれが異なる責務を負う地方自治体であるが法律上の位置づけは同格である。つまる相互に協力関係にあるが、ランスティングがコンミューンを指揮監督するという上下関係にはない。スウェーデンの行政組織の階層性は、国と地方自治体(ランスティングがコンミューン)という二層構造になっている。

 法的基盤としては、1982年の社会サービス法の制定、1983年の保健・医療制度改正、1992年のエーデル改革などにより整備された。1992年のエーデル改革では、高齢者と障害者の社会サービスとヘルスケアに関する責任と権限をコミューンに移譲した。この改革によって、それまでランスティングの所管であった長期療養病院(500か所・31,000床)は、地方自治体コミューンに移された。しかし、短期療養と治療の必要な老人患者の老年科およびその病棟は、現在でも県コミューンに委ねられている。その結果、地方自治体コミューンは、地域に住む老人のケアと、デイセンターを訪れる地域住民のヘルスケアに関する全責任を負うことになり、地方自治体コミューンの社会福祉部門に、ヘルスケアが組み込まれた。

 特に、エーデル改革による社会的入院の解消という目的のために、ランスティングとコミューンの役割の再定義により地域福祉体制が充実した。たとえば、病院からの退院連絡がコミューンに入ると1週間以内(5日以内)に患者を引き受ける必要があることから、即座に退院後の住宅確保や福祉サービスの検討がなされるが、もし、期日を過ぎても引き受けることができない場合はコミューンは違約金をランスティングに支払わねばならないことも行政機関の緊張感を高め福祉体制の拡充につながっていったものと考えられる。
 また、今後の方向性としては、より生活に密着し人間的な居住福祉の推進と在宅サービスの拡充に力が注がれようとしている。

 スウェーデンの高齢者福祉が規律的に概ね良好な方向に向かっている最大の理由は、民主主義が定着し、地方分権が進みかつ地方自治の推進体制が充実していることと、地方議員と地方自治体との協同作業として地域福祉が住民も交えた形で推進されているためであろう。
 この点はわが国も見習うべき点である。